備前おさふね刀剣の里小説推理の7月号が刀特集ということで、さっそく購入しました。今日はその感想をつらつらと。

・グラビア 川崎刀匠さんの鍛錬場「晶平鍛刀道場」の様子

去年、オンラインゲーム「しんけん!!」のコラボカフェ内で行われた川崎刀匠のトーク会をニコニコ動画の生中継で拝見したのですが、そのときにもこの鍛刀道場の様子を少し紹介していただいた記憶があります。しかし改めて鍛錬などされている様子を拝見すると「これは本当に大変なお仕事だなあ」としみじみと思うしかありません。右腕で火床の炎に鋼を入れ、左腕でふいごを動かし炎を調整する。体力と集中力がいかに求められる仕事なのか、想像するだけで心身ともに激しく消耗しそうな気がします。

「そういうことだったのか!」と腑に落ちたのは、折り返し鍛錬の解説で出てきた「水蒸気爆発」でした。ちょうど、鍛錬する鋼を川崎刀匠さんが叩いて、水蒸気がパンッと噴き出している写真の下に書かれていたんですね。その写真を見て、今までピンとこなかった「小規模な水蒸気爆発を起こすことで、鉄に含まれる不純物を飛ばして純度を高める」という意味がすとんと理解できた気がします。文章を書いてお金を得ている私が言うのもなんなのですが、文章だけではピンとこないこともあるのです。ビジュアルで見せることもまた大事ですね。

・座談会

作家の鳥羽亮さん、漫画家のかまたきみこさん、川崎刀匠さんの3人での座談会。この中で一番はっとした言葉は、かまたきみこさんのこの言葉でした。

日本刀の世界においては、過去はものすごく大事にされています。しかし、未来には現代の人たちを大事にしないと繋がりません。

この言葉に、私は深く共感します。少し自分語りになりますが、私は数年前から着物が好きです。しかし、その「好き」の方向は、どちらかというと「”今”、もっと着物を楽しんで着たい。”今”、楽しんで着る人が増えてほしい」という方向を目指しています。だから、着物にしても、そりゃかしこまった場面では色々マナーがあるだろうけど、普段気楽に着るぶんにはそこまでがっちがちにお約束に振り回されなくてもいいんじゃない?と思っているわけですね。それも根底には、「”今”楽しむことを大事にしないと、着物を楽しむということが未来に繋がらなくなる」という思いがあったりするんです。守るべきものはある、でも、時代に合わせて変えていかないと、伝えることはできないんですよね。

刀もたぶん、同じなのではないかと思います。守るべきこともある。でも、未来に刀鍛冶の技術や、刀を楽しむということを残すためには、”今”の人たちを大切にしなきゃいけない。ガラスケースの向こう側に残った、専門の人しか近づけないものではなく、誰もが、その気になれば近づける。そういうものであったらいいんじゃないのかな、と。

実は私、今まで少し「日本刀が好きです」ということにためらいがあったんですね。というのも、私の場合、ゲームから入っていますから。日本刀そのものが好きなのか、あるいはゲームが好きで、その世界観を理解するためのひとつのアイテムとして日本刀に興味を持っているだけなのかが、自分でもよくわからなかったんです。

でも、かまたさんのこの言葉を聞いてはっとしました。私、日本刀が好きです。昔から受け継がれてきた日本刀が好きです。その技術を先人から受け取り、継承していく職人のみなさんが好きです。

かまたさんのこの言葉に出合えただけでも、この本を読んだ甲斐があったというものです。

・幕末志士と愛刀趣味

作家の門井慶喜さんによる、幕末の志士とその愛刀のお話。興味深かったのは、西郷隆盛が村正を帯刀しているという噂がたったというくだりでした。当時の人たちがそう考え噂をする様子がありありと想像でき、思わず唸ってしまいました。愛刀趣味を全否定し、同時に全肯定したとのまとめは面白く、そういう視点で見たら、幕末史もまた違ったものに見えてくるかもしれません。京都出身の私は幕末はあまり好きになれない時代なのですが(「ようわからんよそもんが次から次へとうちの街に来て、好き勝手暴れてめちゃくちゃしていった時代」という印象が大きいのです)いつか機会があれば、幕末ものもじっくり見てみようと思いました。

・鐵火 KATANAメイキング

漫画「KATANA」作者のかまたきみこさんが、どうしてこの漫画を描くに至ったのかを描いているエッセイ漫画。KATANA、今まで読んだことないのですが俄然読みたくなってきました。今度1巻から少しずつ読んでいこうと思います。日本刀の苦しみを解くことができる刀鍛冶の青年(しかも眼鏡の好青年)ってめちゃくちゃ私好みなんですよ。霊や怪異を解きほぐすというか、もつれた糸を解くようにして綺麗にするような雰囲気の話に心惹かれるんです、私。

・テノウチ、ムネノウチ

川崎刀匠さんのエッセイ。お話の内容は、しんけんカフェで伺ったものとほぼ同じです。が、うまい。文章がとてもうまい。シンプルで読みやすい文章で、なおかつ情景が目に浮かびます。特に自在山の夕陽とそれを見るときの心情を綴っているところが素晴らしい。見たことない自在山の景色が目に浮かび、それを見ている刀鍛冶の内弟子さんたちの気持ちまでぐっと胸に迫ってきます。体験した人にしか書けない文章というものがあるのですが、これはまさしくそういう文章なのではないかな、と思います。

・妖魔と宝剣

編集者である東雅夫さんが書かれた文章。怪談雑誌「幽」の編集長で、怪談のアンソロジーなんかをよく編まれている方ですね。編纂された「怪談と名刀」は私も持っています。日本の宝剣と、それにまつわる怪異譚をざっと解説していらっしゃるのですが、特に「おっ」と思ったのは安徳天皇の下りでした。なるほど、そういう解釈があったのか、と。しかしこの解釈のほうが、一連の流れとしてはドラマチックだし、神話と歴史が妖魔というスパイスとともにシームレスにつながっていくあたり、とても面白くていいなあと感じました。こういう、虚実入り混じった考え方は好きです。

長くなるので、日本刀関連記事以外の感想は特に印象に残ったものを2つ。

「さらさら流る」(柚木麻子さん)前半の爽やかさと後半の気分悪さのギャップが怖い。新連載だそうで、続きが気になります。

「あなたのゼイ肉、落とします」(垣谷美雨さん)これは前半のどうしようもない子供の閉塞感と、そこから徐々に開放され、最終的にはいろんな問題が解きほぐされている過程がとても爽やか。ラストも爽やか。子供たちがどんどん明るくなっていく様子、母親が少しずつ肩から重荷をおろしていく様子を、冗談抜きに涙ぐみながら読みました。これはおすすめです。

以上。来月号もまた、「鐵火」と「さらさら流る」の続き読むために買おうと思っています。

※写真は、備前長船刀剣博物館の公開鍛錬場です。去年9月撮影。